「母様、鼎(てい)、聞いて!仕事の口が見つかったわ!
少し大変な仕事だけど、それなりに貰えるわ」
「また用心棒とかいうのではないでしょうね、?」
「大丈夫よ、今度は違う、もっとちゃんとしたものなの。
でも、あまり家には帰ってこれないわ。住み込みの仕事なのよ。
お金が入れば、直ぐ送る」
「え!?お姉ちゃんいなくなっちゃうの??」
「大丈夫よ、鼎。父さんみたいにいなくなったりしない、月に何度かは来るから。
お姉ちゃんがいない間は鼎が母様とこの家を守るのよ、わかった?」
「…うん!わかった!!!」
「それじゃ、母様、明日ここを出るわ」
「…………」
「大丈夫よ、そんなに心配そうな顔しないで。
場所はここの近くの許昌だから、そんなに遠くはないわ」
「じゃ、行って来ます、母様、鼎」
「いってらっしゃい!」
「気をつけるんだよ……」
「偽りの人」
青い空の下、魏国の首都許昌の鍛錬場から兵達の声が聞こえてくる。
兵卒達のみならず将軍階級の武将達も鍛錬をしに来る場。
今まで規則の整っていた声が急にざわめきに変わった。
それは一部の兵達から広まってくる。
「夏侯惇将軍だ!」
兵達が口々に言っている。
そしてもう一つの名が出ていた。
「曹丞相だ!曹丞相が参られた!!」
夏侯惇とその主君曹操が鍛錬場に来たのだ。
夏侯惇もだが、それ以上に曹操が鍛錬場に現れるのはとてつもなく珍しいことだったので、
そのざわめきようといったら例えようがなかった。
そんな中、鍛錬場の一角で静かに自分の得物-片手剣-の手入れをしている若者がいた。
周りの反応とは正反対で。
その若者の隣にいるもう一人の若者が声を掛けた。
「おい、お前は行かないのか?曹丞相と夏侯惇将軍がここにくるなんてそう滅多にないぜ」
と呼ばれた少年は動きを止めずに口を開いた。
「俺はいい…見に行きたいのなら行っていいぞ、李乾」
「本当にいいのか?」
「ああ」
「じゃ、俺行ってくる」
そう言って友人、李乾は人衆の中に混じっていった。
「曹丞相と夏侯惇将軍…ね」
そう誰ともなく独りごちると、また得物の手入れをはじめた。
兵達の中心で夏侯惇と兵の一人が手合わせしていた。
この日、曹操と夏侯惇が鍛錬場に来た理由はただの鍛錬ではなく、
曹操が次の戦で伴う護衛兵を一人増やすための一種の試験のようなものであった。
夏侯惇と手合わせをし、それで認められた者がその任につくというものだ。
当然それがなければ、なしのはなしである。
まぁ、何も実際ここにいる兵全員と手合わせするというのは無理な話なので上位2、30人ぐらいの中からなのだが…
「おい、元譲、どうだ?」
「…いまいちだな」
「そうか」
「もういないのか?」
そう言って夏侯惇と曹操は周りの兵達からの返答を待った。
ざわめく兵達。
「他にいたか?」
「あ、あいつがいるじゃないか」
そう言って口々に”あいつ”と誰かを示していた。
それに気づいて問いただす曹操。
「”あいつ”とは…?」
そして兵の一人が答える。
「という者です。今、あそこにいる……」
そう言って一角を指で指す。
その先には先刻まで得物の手入れをしていたがいた。
今は寝入っているようだ。
腕を組んで顔を伏せている。
「呼んできてはくれまいか?」
そう曹操が言うと、返答した兵がの友人である李乾を促した。
「!おい、起きろ!!」
「・・なんだ李乾か」
そう言って目を覚ます。
寝ぼけている様子はなく、深く寝入っていたわけではないらしい。
「”なんだ”じゃねぇよ、曹丞相と夏侯惇将軍がお呼びだぞ、手合わせしたいと仰っている」
少し考えた後”わかった”とだけ言って立ち上がった。
ゆっくり歩いていく。
他の兵達は、その歩みの妨げにならないように道を空ける。
まだ日は高く、青い空も変わらず綺麗だ。
「少々、お主の力量を知りたい。今から夏侯惇将軍と手合わせして頂けぬか」
「承知いたしました」
深い理由も聞かず、すんなり承諾をして夏侯惇の向かいに立つ。
身長差はかなりあり、顔一個半分ぐらいは違う。
また、夏侯惇のがっちりした体格とは正反対で、男として見てもは幾分華奢な体つきであった。
互いに向き直る。
そして、構えると数秒の後曹操から”始め”の合図が出た。
その合図とともには先手必勝といわんばかりの速さで夏侯惇の得物をはじきに出た。
いつもは夏侯惇は朴刀と言われる種類の剣を使っているのだが、
今回は力量を見るということで通常兵卒たちが使うような、一般的な剣-片手剣-を使っていた。
金属と金属とがぶつかり合う音が静かな鍛錬場に響いた。
は武将達でもあまり見られない左利きの兵だった。
その為握られた剣は左にあった。
その攻撃を夏侯惇は防御すると今度はの剣を弾くべく、夏侯惇が剣を返した。
しかし、それを読んでいたらしいは直ぐに退いて構えなおした。
それを確認して間もなく、夏侯惇は反撃に移った。
のもとへ剣を振り下ろしていく。
その一振り一振りは力強く、の腕に何度も衝撃とそれに伴う痺れが生じた。
10合ぐらいしてからやっとのことで夏侯惇の攻撃を跳ね返すと、は夏侯惇の後ろを取りに走った。
その様子を固唾を飲んで見守る兵達。
腕を組んで見入る曹操。
驚きを隠せない夏侯惇。
今まで手合わせをしてきた兵達は夏侯惇と10合もしないうちに取られる兵が多く、いっても15合弱だった。
それに、防ぐだけでのように夏侯惇の攻撃を弾けた兵は誰一人いなかった。
(このような者がいたとは…)
曹操は心の中でそうつぶやいた。
そして、夏侯惇もまた同じようなことを思った。
夏侯惇の後ろに回ったはそのまま自分の得物をその太い首筋にあてがった。
の息はかなり上がっていた。
夏侯惇にもそれは直ぐわかった。
荒い息遣いが直ぐ後ろから聞こえてくる。
そして、曹操の”そこまで”という終わりの合図が聞こえてきた。
夏侯惇も最初の数十人が流石に効いていたらしく、かなり息が上がっていた。
しかし、そのほとんどはとの手合わせだろう。
「疲れていたとはいえ、元譲から一本取るとはなかなかの腕だ」
とは曹操。
「うむ、いい筋をしておる」
とは夏侯惇。
「これで決まりだな」
「ああ、収穫があったわ」
そう、曹操と夏侯惇は対談した。
意味の分からぬまま、夏侯惇と手合わせをしていたにとってこの二人の会話の主旨がつかめず、さっぱりである。
頭の上に?を浮かべて立っているに曹操は口を開いた。
「よこの後、夕刻までにわしの許に参られよ。城におる」
「承知いたしました」
そう言うと曹操は周りの兵を見渡しながら言った。
「皆のものご苦労であった。各々精進するが良かろう。行くぞ、元譲」
夏侯惇と歩みはじめると鍛錬場の外へ出て行った。
その後は、今まで静かだった鍛錬場が嘘だったかのように兵達の声やらで満たされた。
李乾は支度をしながら座っているに声を掛けた。
「良かったな!これでお前も晴れて曹丞相の護衛兵になれるな」
「??そうなのか?」
さも不思議そうに答えるを半ば呆れながら、間の抜けた顔をする李乾。
「お、お前知らなかったのかよ!?」
「ああ、誰も何も言わなかったしな。しかし、そうなるとお袋や弟をもっと食わせていけるな」
「…そうだな」
そう微笑みかける李乾。
”さてと”と切り出しながらは立ち上がった。
「じゃ俺はそろそろ行く」
「ああ、行って来い」
互いに笑顔を向けるとは鍛錬場の外へ出て行った。
まだまだ、日が落ちるには時間がある
まだ、空は青い
性懲りもなく連載夢をまた始めてみましたが…
微妙なところで途切れたと今ごろ後悔。
ですが、気力が今ないので無視です(殴
しかも、曹操夢のはずなのにあまり接触していない(汗
でも、次からかなり接触するはず(はずかよ)です。
閉じてください
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